ケーリー・ハミルトンの定理
$ \def\W{\widetilde{W}} $
この記事では, ケーリー・ハミルトンの定理の証明と応用について説明する.
約束:
$M_n(\C)$ を $n$ 次複素正方行列の集合とする.
$\Phi_A(x)$ を正方行列 $A$ の固有多項式とする.
$I$ を単位行列とする.
ケーリー・ハミルトンの定理の証明
準備として次の補題を示す.
補題
$A,B\in M_n(\C)$ が相似ならば,
$$ \Phi_A(A)=O \iff \Phi_B(B)=O. $$
[証明] $A,B\in M_n(\C)$ は相似なので, ある可逆行列 $P$ が存在して, $B=P^{-1}AP$ となる. 固有多項式の性質 $\Phi_A(x)=\Phi_B(x)$ により, $$ \Phi_A(B)=\Phi_B(B). $$ $(P^{-1}AP)^n=P^{-1}A^nP$ により, $$ \Phi_A(B)=\Phi_A(P^{-1}AP)=P^{-1}\Phi_A(A)P. $$ したがって $$ \Phi_A(A)=O \iff \Phi_B(B)=O. $$
この補題を使って次を示す.
定理(Cayley-Hamilton)
任意の $A\in M_n(\C)$ に対して $\Phi_A(A)=O.$
[証明]
簡単のため, $n=3$ の場合だけを示す.
三角化定理により, $A$ と相似な上三角行列 $B$ が存在する.
補題より, $\Phi_B(B)=O$ ならば $\Phi_A(A)=O$ である.
ゆえに 最初から $A$ は上三角行列と仮定してもよい.
すると,
$$ A=
\m{\a & * & *
\cr 0 &\b & *
\cr 0 & 0 &\g } $$
と表せる. このとき $A$ の固有多項式は
$$ \Phi_A(x)=(x-\a)(x-\b)(x-\g) $$
である.
$$ \bm{x}=\m{ x_1 \\ x_2 \\ x_3 } \in \C^3 $$
を任意にとる. $\Phi_A(A)\bm{x}=\0$ を示せば主張が示せる.
$$\eq{
\Phi_A(A)\x & =(A-\a I)(A-\b I)(A-\g I)\x
\\[2pt] & =(A-\a I)(A-\b I)
\m{\a-\g & * & *
\cr 0 &\b-\g & *
\cr 0 & 0 & 0 }
\m{x_1 \\ x_2 \\ x_3}
\\[2pt] & =(A-\a I)(A-\b I)
\m{* \\ * \\ 0}
\\[2pt] & =(A-\a I)
\m{\a-\b & * & *
\cr 0 & 0 & *
\cr 0 & 0 & \g-\b }
\m{* \\ * \\ 0}
\\[2pt] & =(A-\a I)
\m{* \\ 0 \\ 0}
\\[2pt] & =
\m{ 0 & * & *
\cr 0 &\b-\a & *
\cr 0 & 0 &\g-\a }
\m{* \\ 0 \\ 0}
\\[2pt] & =\m{0 \\ 0 \\ 0}=\0.
}$$
ゆえに $\Phi_A(A)=O.$
応用
ケーリー・ハミルトンの定理にはいくつもの応用があるが, 特に大事なのが以下の定理の証明への応用である.
定理
固有多項式は最小多項式で割り切れる.
[証明] 行列の最小多項式を参照.
定理 (分解定理)
$A\in M_n(\C)$ とし,
$\a_1,\cd,\a_s$ を $A$ の相異なる固有値全体とすると,
$$ \C^n=\W(\a_1)\op \W(\a_2)\op \cd \op \W(\a_s). $$
[証明] 広義固有空間を参照.
定理
$N \in M_n(\C)$ に対し, 次の3つは互いに同値である:
(1) $N$ はべき零行列.
(2) 固有値は $0$ のみである.
(3) $\Phi_N(x)=x^n.$
[証明] べき零行列を参照.